あの場所はぼくにとってのホーリーランドだった――


高校生活も2年目に入った春のことだ。その頃のぼくには予備校の講義のあと夜の街をふらつく癖がついていた。学校でも、家でも、もちろん予備校でも漠然とした居心地の悪さを感じていたぼくは、対象のない苛立ちを夜の街で繰り広げられる”戦い”にぶつけることで消化していた。数週間前までは売られたケンカを買うだけだったが、互角以上に戦えることがわかった今では自分から対戦相手を探すようになっていた。
場末という言葉を具現化したような夜のゲームセンター。ここに来ればぼくのように閉塞感を戦いにぶつける若者がはいて捨てるほどいて、対戦相手に困ることはなかった。ほら、そこにも・・・。
お互いに腕を試し相手を叩きのめすためにこの場所にきてるのだ。遠慮は要らない。ぼくは最初に目に入った重量級の空手使いに勝負を挑んだ。

100円玉を投入。ぼくはテコンドー使いになる。
このゲームでは強いとも弱いともされていないキャラだったが、カウンター重視で戦えるスタイルが気に入っていた。一本目が始まる。二本先取のこのゲームでは、最初の一本がことさら重要だ。指先に神経を集中し、ぼくは最適化されたタイミングでコマンドを入力するOSとなる。
不用意に打ってきた相手の強中段突きをバックステップでかわして放った回し蹴りが、カウンターヒットのサウンドエフェクトを大きく響かせる。上空に派手に飛んだ相手を横蹴りで拾いレフトキックコンボを叩き込む。相手の体力ゲージが大きく減り、ぼくは勝利を確信した。カウンター型のぼくにとって先制することが何より重要なのだ。そして中間距離から不用意に大技を使うプレイヤーはお世辞にもうまいとはいえない。
2本目も危なげなく勝利したが、次の乱入者として対戦した少女拳法使いにはあっさり負けた。今のぼくの技術はこの程度だろう。台を代え200円ほど浪費して満足したぼくは、寂れたゲームセンターを後にして家路についた。

現実世界とバーチャル世界の間
そこにホーリーランドは存在する
甘やかなコマンドと
当り判定のリアルが支配する
モニタの中の世界
その世界に――彼はいた
ツカンポ
彼は確かにそこにいた

(了)
日付がアレとは言え、この流れ↓は正直酷いと思うw ちなみにゲームのイメージは鉄拳です。