やつとであったのは、この狭い部屋の玄関先だった。
カサカサと音を立てる素早い移動、テカテカと茶色く輝く背中、ゆらゆらとうごめく触覚。見ているだけで嫌悪感を誘う姿形。もう夏も中盤になっていて、いつやつが出てもおかしくない時期だ。
今回出たのはちゃばねとか言われるやつだろう。黒いものより小さくておとなしいとはいえ、出来ることならガチンコバトルは避けたい。幸いにもここは玄関先だ。うまくすればこのまま武力介入なしで撤退してくれるかもしれない。それがぼくの理想だった。
部屋の電気を落とし、ぼくは静かに玄関のドアを開けた。夜行性のやつらは、暗いところだとじっとしてあたりを伺うらしい。威嚇用のサンダルを片手に装備し、玄関の電気をつけて、やつの側に威嚇の一撃を見舞った。驚いたやつがカサカサと部屋の外に逃げていった。ぼくは、ぼくの領土を、武力抗争なしでやつらの不法侵入から守ったのだった。
すっかり満足して勝利の美酒に酔いながらこの文章を書いているぼくの後ろで、何かがカサカサと音を立てて、ガラクタの山に消えていった。