長谷敏司「あなたのための物語」

あなたのための物語

あなたのための物語

サマンサ・ウォーカーは死んだ。死は、人間が言語を使い始めて文化の歩みを進める中、常に無為であり続けた。そして今後も無為な断絶であり続ける。サマンサ・ウォーカーがひとり、病気療養中の自宅でこの去ったのは、三十五歳の誕生日のまぢかの寒い朝だった。それが、彼女という物語の結末だった。
これは傑作。「物語」についての物語であり、「死」についての物語でした。不治の病で死を知らされたサマンサが、苦痛にもがき続ける様子が欝々とつづられます。かなりしんどい話でした。死の宣告を受けたサマンサと、サマンサが発明し巨万の富を築くきっかけになったITP(Image Transfer Protocol)でできた人口人格、研究が終わったら消去される人格データのとの交流が本作の見どころでしょう。へんなお涙頂戴劇にしないで、徹底的にシビアに死を書ききっているのもすごいですね。
「そして、サマンサ・ウォーカーは動物のように尊厳なく死んだ」