芝村裕吏「この空のまもり」

ニート、田中翼の朝は早い。鳥も鳴かぬ時間帯から今では珍しくなったデスクトップPCの電源を入れ、モニターにウィジェットを多数立ち上げる。今日は特別な日だ。強化現実空間に展開される悪性タグを、現実の政府が後手後手で何の対策もとってないもう一つの現実に存在する悪意を、架空防衛大臣である翼が率いる架空政府と架空軍で一掃するのだ。翼が強化現実眼鏡をかけ仮想現実を呼び出すと、この空をまもるための戦いが始まった。
この書き出しだけでめっちゃくちゃ不穏な空気が漂いまくってますが、クソみたいな現実と比べるとだいぶまともな小説でした。ただ、ちょっとこのテーマでいくには理想論に流れすぎかな。作中で連呼される「愛国心」も、日本人も外国人も含めて日本で生活する人を大事にしようみたいな解釈でしたが、現実世界でこの言葉を連呼する連中から省みるにあまりにリベラルすぎる解釈かな、と。kの言葉を使う人はそう考えてないだろうし、そういう解釈をするような人は「愛国心」という言葉は使わないでしょ。
比較対象として適切かどうかは置いといて、山本弘「アイの物語」()のほうが好きですね。読んでる間に感じたことは近いけど、あっちのは理想に流れるんじゃなくてクソみたいな現実を認めた上で、物語の力で変えようとしてたので。