野尻抱介「ふわふわの泉」

ふわふわの泉

ふわふわの泉

翌日に迫った文化祭に向けて科学部の準備をしていた泉は、突然の落雷によって偶然に、不思議な物体を実験室の天井付近に生成した。結晶の中に真空を含むため地表付近の空気より軽く、それでいてダイヤモンド以上の高度を持つ、立方晶窒化炭素の化合物。これを売れば一生遊んで暮らせる。少なくとも、して楽しくない努力はしなくてもいい。泉はそれを「ふわふわ」と名づけ、量産するための会社を立ち上げた。
偶然の産物で手に入れた「ふわふわ」をめぐり、当時高校生だった泉の世界は物凄く変わっていくのですが、空気より軽い立方晶窒化炭素の商業的価値を考えたら社会の変わりようは納得できる範囲ではあります。そのレベルのイノベーションが起きたら、これくらい変わるよね、確かに。現実的に考えると、泉さんは特許と一緒にアメリカに行って起業しない限り日本社会に潰されるだけだとは思いますが、そんな夢のない話をしてもしょうがないか。奇跡のような物質が生成できたら、そしてそれを量産できたとしたら、人類*1はどう変わるかというのを考えるのがSFなのでしょう。あと、泉さんがぜんぜん楽をしてないのがなんだかおかしいです。たぶん本人的には、してもいい努力なんでしょう。
中盤以降の超絶展開はちょっと飛ばしすぎだとは思います。野尻抱介の小説は、わりと材料工学よりですね。

*1:not 社会