貫井徳郎「愚行録」

愚行録 (創元推理文庫)

愚行録 (創元推理文庫)

ええ、はい。あの事件のことでしょう?やっぱりこんな派手な事件だと、ライターさんも書く意欲を書きたてられるんでしょう。それこそ何人ものライターさんと会ったから、もう見ただけで何やってる人かわかるようになっちゃった。あなたもあの事件の本を書きたいの?
ある殺人事件の被害者になった夫婦について、近所のおばさんから会社の同僚、大学の同期なんかのインタビューをつなぎ合わせ事件の全容が少しずつ判明していく、という構成になってます。一流企業に勤める夫に若々しく可愛らしい妻。非の打ち所の無い家族に見えた夫婦も、視点を変えつつさまざまな人のインタビューを見ることでなかなかのクズっぷりをあらわにしていきます。そして読者は、それを嬉々として語るインタビュイーにも、同様の身勝手さ、傲慢さ、自己正当化を見つけ、最後には読者自身の身を省みることになるのです。
愚者が愚者について醜く語る様を、愚者が読む。愚行録の名に恥じぬダウナーな小説でした。後味の悪さが大変いいです。