山本弘「アイの物語」

アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)

ロボットが地球上を支配して人間が細々と暮らす未来世界で、アイを名乗るロボットが僕に聞かせた七つの話。かつて作られたフィクションだというその話は、僕の価値観を少しずつ揺さぶっていった。真実より正しいフィクション。いつしか僕は、それを笑い事だとは思えなくなっていた。みたいな感じ。
これはすごい。
序盤こそ、アイの伝える物語があんまり面白くないなぁなんて思いながら読んでたけど、「詩音が来た日」から「アイの物語」へと続く後半は魂が震えたよ。人間が作った、完全に論理的な思考をするロボットが指摘する人間の不完全性は納得できるものがあります。デマゴギーを信じ、正義のための戦争を信じ、思考や宗教、肌の色などの小さなことがらで自分たちと違うものを攻撃する。そんな世界が間違っていると論理で指摘するAIの正しさ・・・。SFの短編集だと思って読んでたら、いつのまにかすごい話になってました。
絶望するだけじゃなくそこから先を示しているあたりに、物語の力で世界を変えようという山本弘の本気度が伝わってきます。