有川浩「海の底」

海の底 (角川文庫)

海の底 (角川文庫)

米軍横須賀基地が市民に開放される春の桜祭り。自衛隊の実習幹部・冬原と夏木が祭りを尻目に懲罰の腕立て伏せをしていると、巨大な甲殻類の大群が基地を占拠して人間を食べ始めた。冬原と夏木は、遊びに来ていた子供たちをつれて、潜水艦に逃げ込みそこでしばらく篭城することになってしまった。
これはすごい。
「空の中」に続いての怪獣小説です。本作で出てくるのは、人間大のザリガニの大群。チキン質の硬い殻は、警防やジュラルミンの盾による一撃にはびくともせず、大きなはさみは生身の人間をたやすく打ち倒す、という状況になります。必然的に警察では太刀打ちできずに、対怪獣戦は自衛隊出動と銃火器の使用を警察官僚出身の政治家や内閣にどうやって認めさせるかという防衛組織の駆け引きになります。社会派だねw
もう一つの柱として、潜水艦の中に閉じ込められた大人二人と子供たちによるいざこざ、子守りが書かれています。密閉空間で生まれる軋轢と衝突、そして・・・という展開がかなり面白かったです。
ありえない出来事を一つだけ認めて後の出来事を社会学方面にシミュレートした作品で、荒唐無稽な設定からは想像もつかないほどリアリティのある作品だと思います。