大西科学「晴れた空にくじら」

晴れた空にくじら 浮船乗りと少女 (GA文庫)

晴れた空にくじら 浮船乗りと少女 (GA文庫)

これはすごい。
日露戦争が始まったころの奉天で浮船による輸送業をしている雪平のもとへ一人の女の子がやってきた。「その浮船わたしにください」いや、そんなこと言われても困る。雪平にはそんな責任も権限もないのだ。
浮船の設定が素晴らしすぎます。
空に浮かぶ浮鯨の中にある、浮玉を原動力にして浮かぶ舟。浮玉ひとつにつき250キログラム重の浮力があります。というところから物理考察がスタートします。浮力と重力をつり合わせてるだけだから質量は変わらない=慣性が働きます。大きい物体は動かしにくいし、一度動き出したら方向を変えるのに仕事が必要、とか。“不思議な現象”をひとつだけ認めて、それ以降は完全に物理学が支配する法則で動いてるんですよ。これはすごい。
雪平の性格ゆえか、それなりにピンチなのにのんびりとした空気が漂ってて(まるで浮船の慣性のよう)、ストーリー自体も面白かったです。